前回の記事では、日本政策金融公庫から創業融資を受けるための全体像とステップについて解説しました。今回はその中でも特に重要な、**「事業計画書の作成」と「面談対策」**に焦点を当て、審査通過の可能性をさらに高めるための具体的なノウハウを詳しくご紹介します。
創業者の熱意と事業の将来性を伝えるための最重要書類である事業計画書。そして、その内容を直接担当者に伝え、信頼を勝ち取るための面談。この2つを制することが、創業融資成功の鍵と言っても過言ではありません。
【徹底解説】審査を有利に進める!日本政策金融公庫向け事業計画書の書き方
日本政策金融公庫の創業融資では、多くの場合「創業計画書」という指定の様式で事業計画を提出します。この計画書を通じて、担当者はあなたの事業の実現可能性、継続性、そして返済能力を判断します。単に空欄を埋めるのではなく、戦略的に情報を盛り込み、説得力のある内容に仕上げることです。
なぜ事業計画書がこれほど重要なのか? – 担当者はここを見ている!
融資担当者は、日々多くの事業計画書に目を通しています。その中で、あなたの計画書が「この事業は応援したい」「しっかりと返済してくれそうだ」と思わせるためには、以下のポイントが明確に伝わる必要があります。
- 事業の魅力と独自性: なぜこの事業なのか?市場にどんな価値を提供するのか?競合との違いは何か?
- 経営者の能力と経験: これまでの経験が事業にどう活かせるのか?事業を遂行する能力があるか?
- 計画の具体性と実現可能性: 売上や利益の予測に根拠はあるか?資金計画は妥当か?
- 返済能力: 借りた資金をきちんと返済できる見込みがあるか?
- 事業への熱意と本気度: どれだけ真剣にこの事業に取り組もうとしているか?
これらの要素を、客観的なデータと具体的な言葉で示すことが求められます。
創業計画書の各項目別・書き方のポイントと具体例(日本政策金融公庫の様式を想定)
日本政策金融公庫の「創業計画書」の様式に沿って、各項目の書き方のポイントと具体例(考え方)を解説します。
- 創業の動機:
- ポイント: なぜこの事業を始めようと思ったのか、具体的な経験や社会的なニーズなどを交えて記述します。単なる「儲かりそうだから」ではなく、事業を通じて実現したいことや、自身の強みをどう活かせるのかを明確にしましょう。熱意だけでなく、事業の継続性や社会的な意義も感じられると評価が高まります。
- 例: 「長年勤務した〇〇業界での経験を通じて、△△という課題を痛感しました。この課題を解決し、より多くの方に□□という価値を提供したいという強い思いから、本事業の創業を決意しました。」
- 経営者の略歴等:
- ポイント: これまでの職務経歴や取得した資格、実績などを具体的に記載します。特に、今回の創業事業に直接関連する経験やスキルは詳細にアピールしましょう。数字で示せる実績があれば、より説得力が増します。
- 例: 「株式会社△△にて5年間、〇〇部門の責任者として、新規顧客開拓に従事。担当期間中に売上を前年比150%に向上させた実績があります。また、□□の資格を取得しており、専門知識も有しております。」
- 取扱う商品・サービス:
- ポイント: 提供する商品やサービスの内容、特徴、強み(独自性、優位性)を具体的に説明します。ターゲット顧客にとってどのようなメリットがあるのかを明確に伝えましょう。複数の商品・サービスがある場合は、主力となるものから説明します。
- セールスポイント: 競合と比較して何が優れているのか(価格、品質、技術、サービスなど)を具体的に記述します。
- 販売ターゲット・販売戦略: 誰に、どのようにして商品やサービスを届けるのかを明確にします。具体的な集客方法や販促活動も記述しましょう。
- 取引先・取引関係等:
- ポイント: 主要な販売先、仕入先、外注先などを具体的に記載します。既に取引が見込まれる先があれば、その関係性や取引条件なども補足すると良いでしょう。これにより、事業の安定性や実現可能性が高まります。
- 掛取引の割合や回収・支払条件: 資金繰りに影響するため、具体的に記載します。
- 従業員:
- ポイント: 創業当初の従業員数(常勤、非常勤の別)や、将来的な採用計画について記載します。人件費は固定費の中でも大きな割合を占めるため、事業規模に見合った計画であることが重要です。
- お借入の状況:
- ポイント: 経営者個人や事業主としての既存の借入(住宅ローン、自動車ローン、カードローン、他の事業資金など)について、正直かつ正確に記載します。隠さずに開示することで、誠実な姿勢を示すことができます。返済の遅延などがある場合は、その理由と今後の対応についても説明できるようにしておきましょう。
- 必要な資金と調達方法:
- ポイント: 事業を始めるために必要な資金(設備資金、運転資金)の内訳と金額を具体的に記載し、その資金をどのように調達するのか(自己資金、親族からの借入、日本政策金融公庫からの希望借入額など)を明確にします。
- 設備資金: 店舗・事務所の敷金礼金、内外装費、機械装置、車両運搬具など。見積書などの根拠資料を準備しておきましょう。
- 運転資金: 商品仕入資金、諸経費(人件費、家賃、広告宣伝費など)。最低でも3ヶ月分程度の運転資金を見込んでおくと安心です。
- 自己資金: どのように準備してきたのか、その経緯も重要です。通帳のコピーなどで証明できるようにしておきましょう。
- 事業の見通し(月平均):
- ポイント: 創業当初と軌道に乗った後(通常1年後程度)の収支計画(売上高、売上原価、経費、利益)を月平均で記載します。この数字の算出根拠を明確に示すことが最も重要です。
- 売上高の根拠: 客単価 × 客数、契約単価 × 契約数など、具体的な計算式で示します。なぜその客数や単価が見込めるのか、市場調査や競合分析の結果を踏まえて説明しましょう。
- 売上原価(仕入高)の根拠: 売上に対する原価率で示します。
- 経費の根拠: 人件費、家賃、水道光熱費、広告宣伝費、支払利息などを具体的に積み上げて計算します。
- 利益: 売上高から売上原価と経費を差し引いたものです。この利益から借入金を返済していくことになるため、無理のない計画であることが求められます。
- 楽観的すぎず、かといって悲観的すぎない、現実的で達成可能な計画を示しましょう。複数のシナリオ(強気、普通、弱気)を準備しておくのも良いでしょう。
事業計画書作成でよくある失敗例と改善策
- 失敗例1:内容が抽象的で具体性に欠ける。
- 改善策:誰に、何を、どのように提供し、どうやって収益を上げるのか、5W1Hを意識して具体的に記述する。数値目標も具体的に。
- 失敗例2:売上計画が楽観的すぎる、または根拠が不明確。
- 改善策:市場調査や競合分析に基づき、客観的なデータで売上予測の根拠を示す。複数の見積もりやシミュレーションを行う。
- 失敗例3:自己資金の準備経緯が不明瞭。
- 改善策:自己資金をどのように貯めてきたのか、通帳などで明確に示せるようにする。「見せ金」は厳禁。
- 失敗例4:資金使途が曖昧。
- 改善策:何にいくら必要なのか、優先順位も考慮して具体的に記載する。見積書などの裏付け資料を添付する。
- 失敗例5:専門用語が多く、分かりにくい。
- 改善策:誰が読んでも理解できるように、平易な言葉で丁寧に説明する。
専門家(認定支援機関など)の活用も検討しよう
事業計画書の作成に不安がある場合は、中小企業診断士や税理士などの専門家、あるいは認定経営革新等支援機関(認定支援機関)に相談するのも有効な手段です。客観的な視点からのアドバイスを受けることで、計画の質を高めることができます。
【これで安心】日本政策金融公庫の融資面談・完全攻略マニュアル
事業計画書が無事に受理されると、次はいよいよ担当者との面談です。面談は、あなたの事業への情熱、計画の具体性、そして経営者としての資質を直接アピールする絶好の機会です。緊張するかもしれませんが、しっかりと準備をすれば大丈夫です。
面談の目的と評価されるポイントを再確認
面談の主な目的は以下の通りです。
- 事業計画書の内容確認と深掘り
- 経営者の事業遂行能力や経験、人柄の確認
- 事業への熱意や本気度の確認
- 返済能力の最終確認
担当者は、あなたが「信頼できる人物か」「事業を成功させ、きちんと返済してくれるか」を見極めようとしています。嘘や誇張は見破られるので、思いを面談で伝えてください。
想定される質問集と模範回答例(考え方のヒント)
面談では、事業計画書に基づいて様々な質問がされます。以下に代表的な質問と、回答のポイントを挙げます。
- 事業内容・強みについて:
- 「なぜこの事業を始めようと思ったのですか?(創業の動機)」
- → 熱意と共に、自身の経験や社会的なニーズと結びつけて具体的に語る。
- 「あなたの事業の強み、競合との違いは何ですか?」
- → 具体的な商品・サービスの特徴、価格、技術、ノウハウなどを明確に伝える。
- 「なぜこの事業を始めようと思ったのですか?(創業の動機)」
- 市場・競合について:
- 「ターゲット顧客はどのような層ですか?市場規模はどの程度見込んでいますか?」
- → 具体的なペルソナや調査データに基づいて説明する。
- 「競合の状況はどうですか?その中でどうやって勝ち抜いていきますか?」
- → 競合の強み・弱みを分析し、自社の戦略を明確に伝える。
- 「ターゲット顧客はどのような層ですか?市場規模はどの程度見込んでいますか?」
- 収支計画・資金計画について:
- 「売上目標とその根拠を教えてください。」
- → 事業計画書に記載した算出根拠を、自分の言葉で分かりやすく説明する。
- 「必要な資金の内訳と、今回の借入希望額の使い道を具体的に教えてください。」
- → 何にいくら必要で、それが事業にどう貢献するのかを明確に説明する。
- 「自己資金はどのように準備されましたか?」
- → コツコツと貯めてきた経緯などを誠実に話す。
- 「もし計画通りに売上が上がらなかった場合、どのように対応しますか?」
- → リスクを認識し、具体的な対策(経費削減、追加融資、販路拡大策など)を考えていることを示す。
- 「売上目標とその根拠を教えてください。」
- 経営者自身について:
- 「これまでのご経験で、今回の事業に活かせるものは何ですか?」
- → 具体的なエピソードを交えながら、スキルや知識をアピールする。
- 「事業を行う上で、ご自身の弱みは何だと認識していますか?それをどう補いますか?」
- → 自己分析ができていることを示し、具体的な改善策や協力者の存在などを伝える。
- 「これまでのご経験で、今回の事業に活かせるものは何ですか?」
- 将来の展望について:
- 「この事業を通じて、将来的にどのようなことを実現したいですか?」
- → 短期的な目標だけでなく、長期的なビジョンも語ることで、事業への本気度を示す。
- 「この事業を通じて、将来的にどのようなことを実現したいですか?」
これらの質問に対し、事業計画書の内容と矛盾なく、自信を持って、かつ誠実に答えることが重要です。丸暗記ではなく、自分の言葉で説明できるように準備しましょう。
面談当日の持ち物、服装、心構え
- 持ち物:
- 公庫が指定した資料
- 提出した事業計画書のコピー(自分用)
- 筆記用具、メモ帳
- 身分証明書(運転免許証など)
- 見積書や契約書など、計画の根拠となる資料の原本またはコピー
- (あれば)商品サンプルやパンフレットなど、事業内容を補足説明できるもの
- 服装:
- スーツまたはビジネスカジュアルなど、清潔感があり、相手に失礼のない服装を心がけましょう。業種によっては作業着などが適切な場合もありますが、TPOをわきまえることが大切です。
- 心構え:
- 自信を持つ: あなたが情熱を注ぐ事業です。堂々と説明しましょう。
- 誠実であること: 分からないことは正直に伝え、知ったかぶりはしない。
- 謙虚な姿勢: 担当者は融資のプロです。アドバイスには耳を傾けましょう。
- 時間を守る: 遅刻は厳禁です。余裕を持って到着しましょう。
- 感謝の気持ちを忘れない: 忙しい中、時間を作って面談してくれていることへの感謝を伝えましょう。
面談で「してはいけない」NG行動・発言
- 事業計画書の内容を理解していない、他人任せな態度
- 質問に対して曖昧な回答を繰り返す、または話をそらす
- 横柄な態度、担当者を見下すような言動
- 過度に悲観的な発言、または根拠のない楽観論ばかりを述べる
- 返済に対する意識が低いと思われる言動
- 他の金融機関の悪口を言う
これらの行動は、あなたの信頼性を著しく損なう可能性があります。十分に注意しましょう。
まとめ:準備が自信を生み、成功を引き寄せる
日本政策金融公庫からの創業融資は、あなたの夢を形にするための大きな一歩です。その鍵を握るのが、質の高い「事業計画書」と、あなたの熱意を伝える「面談」です。
今回深掘りしたポイントを参考に、一つひとつ丁寧に取り組んでください。徹底的な準備は、あなたに自信を与え、融資担当者にもその熱意と計画性が伝わるはずです。
あなたの事業計画が実を結び、力強くスタートできることを心から応援しています。
- 日本政策金融公ikówの「創業計画書」の様式をダウンロードし、本記事の解説を参考にしながら、まずは一度ご自身の言葉で書き出してみましょう。
- 作成した事業計画書を基に、想定される面談の質問に対する回答を準備し、声に出して練習してみましょう。可能であれば、信頼できる人に聞いてもらい、フィードバックをもらうのも効果的です。
この記事が、あなたの創業準備の一助となれば幸いです。ご不明な点や、さらに詳しく知りたいことがあれば、ぜひコメントでお知らせください。

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